がん遺伝子治療とは?メリット・デメリットや遺伝子検査との違いを解説

正常に機能しなくなったがん細胞の遺伝子に働きかけ、がん細胞の増殖の抑制を目指す「がん遺伝子治療」。遺伝子研究の進展に伴い、がん治療の新たな選択肢として期待されています。がん遺伝子治療の分野では、数多くの臨床試験が進められていますが、現状ではいくつかの課題がある点も事実です。

本記事では、がん遺伝子治療の特徴や標準治療との関係、メリット・デメリット、がん遺伝子検査との違いを解説します。




がん遺伝子治療とは?

がん遺伝子治療とは、がん抑制タンパクを作る遺伝子を活用する治療法です。

近年の研究で、がん細胞にはがん抑制遺伝子の傷や欠損があることがわかってきました。がん遺伝子治療では、遺伝子導入ベクターなどを利用して、がん抑制遺伝子を体内に導入します。がん抑制遺伝子が生み出すがん抑制タンパク質の働きにより、がん細胞の増殖を停止させ、がん細胞の自死(アポトーシス)へと導く仕組みです。

がん遺伝子治療では、がんの自死を促す「p53」、がん細胞を老化へと誘導する「p16」、増殖を抑制する「PTEN」などの遺伝子が用いられます。

がん遺伝子治療は、1950年代にその発端となる研究が開始された治療法です。その後、研究が続けられ、海外では複数の承認された遺伝子治療製品が登場しています。未だ研究の途上にあり、日本では保険適用外の治療法ですが、近年では難治性がんの治療法として特に注目されています。


現在のがんの標準治療

科学的根拠に基づき、現在利用できる最も効果的な治療を、「標準治療」といいます。日本のがん治療では、症状や種類、がんの進行度などを考慮し、主に以下の3つの方法を組みあわせて治療が行われています。

標準治療は、がんの治療ガイドラインに基づく治療法である一方、がん遺伝子治療は、全ての医療機関で治療を受けられるわけではありません。がん遺伝子治療は一部の医療機関や治験などで実施されており、単体での採用または標準治療との併用によって、治療効果を高める作用が期待されています。



がん遺伝子検査との違い

近年、一部のがん治療では、標準治療の一環としてがん遺伝子検査が実施されています。

がん遺伝子検査は、がん細胞の遺伝子の変化を調べる検査です。患者それぞれで異なるがんの遺伝子やタンパク質を調べ、遺伝子情報に基づいた個別化医療(がんゲノム医療)を実施するために行われます。乳がんや大腸がんなどの一部のがんでは、医師の診断のもとでがん遺伝子検査が実施され、適切な治療薬が選択されます。

がん遺伝子検査は2つの種類に分けられ、「がん遺伝子検査」は主にひとつの遺伝子を調べる検査です。複数の遺伝子を調べる検査は、「がん遺伝子パネル検査」と呼ばれています。

一方、がん遺伝子治療は、がん治療の選択肢のひとつとなる治療法です。どちらも「がん遺伝子」の言葉を含む用語ですが、個別化医療の「検査」のために行われるがん遺伝子検査とは、目的や内容が全く異なる方法です。



がん遺伝子治療のメリット・デメリット

がん遺伝子治療は、従来の治療法とは異なるメリットがあります。ただし、いくつかのデメリットがある点も事実です。以下では、がん遺伝子治療のメリットとデメリットを解説します。


がん遺伝子治療のメリット

がん遺伝子治療は、遺伝子研究の成果を応用した治療法です。主なメリットには以下の項目が挙げられます。

  • 副作用や痛みが少ない
  • 体力が少ない高齢者や小児にも適用できる場合がある
  • 点滴や注射による投与が基本で通院での治療が可能
  • 難治性がんの治療の選択肢となる

がん遺伝子治療は、もともと体内にあるがん抑制遺伝子を利用して治療を行います。まれに一時的な発熱や倦怠感を伴うケースも見られますが、重篤な副作用が起こりにくい点がメリットです。体力が少なく、外科治療や抗がん剤治療が困難な患者にも適用が可能な場合もあります。

また、がん遺伝子治療は点滴や注射による投与が基本です。治療時間が比較的短く、通院での治療も可能な側面を持ちます。

その他、がん遺伝子治療は、治療法が確立されていない難治性がんの選択肢としても注目されている方法です。現時点では開発の途上ですが、腫瘍溶解性ウイルス療法やCAR-T細胞療法などの研究も進められています。


がん遺伝子治療のデメリット

がん遺伝子治療は、複数の治療効果が報告されている一方で、デメリットや課題を残しています。主なデメリットは以下のとおりです。

  • 治療費が高額になる
  • 保険が適用されない自由診療になる
  • 治療法や治療効果が確立されていない

がん遺伝子治療は、治療に多くの費用がかかる点が課題です。がん遺伝子治療の開発には高額の費用がかかっており、現時点では低コスト化は進んでいません。保険が適用されない自由診療である点もデメリットです。

また、すでに多数の治療例が蓄積されている外科治療や化学療法とは異なり、がん遺伝子治療は治療法や治療効果が確立されていません。投与に活用するAAVベクターの安全性を含め、今後さらなる研究が求められる治療法です。



がん遺伝子治療の現状

がん遺伝子治療で用いられる治療薬は、日本を含め、世界各国で臨床試験や治験が進められています。ただし、前述のように現在は研究段階にあり、日本では治験や自由診療でごく限られた医療機関でのみ実施されている状況です。

また、日本の遺伝子治療の臨床試験数は、世界全体の1.6%にすぎません。今後、外科治療や化学療法、放射線療法に続く治療法となるためにも、実用化に向けた研究が必要です。

なお、2019年6月から、がん遺伝子パネル検査の保険適用が開始されました。遺伝子を解析して治療効果のある薬剤を用いる「がんゲノム医療」も、研究が進められています。



がん遺伝子治療の情報収集に「再生医療EXPO」の活用を

がん遺伝子治療は、がんの抑制につながる治療法として期待されています。がん遺伝子治療に関わる事業に携わるなら、関連する技術の理解や情報の収集が大切です。

再生医療EXPOには、細胞の研究機器や自動培養装置、滅菌・クリーン化に関する技術など、再生医療・細胞研究に関する最新の技術や製品が多数出展されます。世界各国から関連する分野の専門家が来場するため、がん遺伝子治療を含め、幅広い情報収集に適した展示会です。

また、再生医療EXPOには、医薬品メーカーや研究機関、医療従事者の方々が多数来場します。新たな販路や顧客を開拓する際にも、役立つ展示会です。関連する技術や製品、サービスをお持ちであれば、出展を検討してみてはいかがでしょうか。

開催場所や日程などの詳細は、以下のリンクよりご確認いただけます。

■再生医療EXPO 大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)インテックス大阪

■再生医療EXPO 東京
2025年7月9日(水)~11日(金)東京ビッグサイト



がん遺伝子治療は実用化に向けた研究が進む分野

がん遺伝子治療は、正常に機能しなくなったがん細胞に抑制遺伝子などを導入して、がんの治療を行います。p53やp16などの遺伝子を活用して、がん細胞に直接働きかける治療法です。

がん遺伝子治療には、副作用が少ない点や通院でも治療が可能な点など複数のメリットがあります。一方、コスト面などで課題が残されており、今後の動向への注視が必要です。

再生医療EXPOには、細胞や遺伝子の研究・開発に貢献する様々な技術・製品が出展されます。がん遺伝子治療を含め、再生医療や細胞研究に関する情報収集に、再生医療EXPOをぜひご活用ください。



▶監修:山本 佳奈

ナビタスクリニック内科医、医学博士

1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)での勤務を経て、現在、ナビタスクリニック(立川)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。


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